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石川善樹×矢野和男「つながり」がもたらす人類の大変革人工知能と予防医学が導く、より良い生き方

人や社会とのつながりが幸福度を高め、生産性を高めることを、ビッグデータの研究第一人者として科学的アプローチで解明した、『データの見えざる手』著者の矢野和男氏。つながりが少ないと死亡率が高まることなどを研究データから説いた、予防医学研究者で『友だちの数で寿命はきまる』著者の石川善樹氏。人がよりよく生きるために重要な「つながり」の威力について語っていただいた。

石川善樹氏と矢野和男氏の写真

――矢野さんは、人や組織の「つながり」が人の幸福度を左右し、それが仕事のパフォーマンスに影響するという研究結果を発表されています。具体的に教えていただけますか?

矢野
私は2006年から10年以上にわたって、開発したウェアラブルセンサーで人間行動の法則を研究しています。身体活動や位置情報、会話した相手やその時間などを蓄積したビッグデータから、試行錯誤の末に「人の幸せ」を定量化できるようになりました。
幸せに寄与するのは、コミュニケーションです。それも、多ければいいわけではありません。質、量、タイミング、相手を的確に選んだコミュニケーションが、幸せに効くことがわかったのです。そして、幸福度は組織の生産性向上に直結します。
今まで、良いコミュニケーションをとるために「部下とはこう接しよう」「会議は1時間以内に終わらそう」など、何でも一律で考えられていましたよね。だけど、ビッグデータは全く違う結果を示していました。個人を取り巻く環境や、仕事内容、性格がそれぞれ違うように、幸福度を高めるコミュニケーションも違いました。

矢野氏が身につけている、ウェアラブルセンサー矢野氏が身につけている、ウェアラブルセンサー

石川
おもしろいですね!ちなみに、同じ会社でも部署によって違いますか?
矢野
違います。ある部署は課長が早く帰った日にメンバーの幸福度が上がる。またある部署は、課長がみんなにしょっちゅう声掛けすると幸福度は上がる。他にも、1時間以上の会議がある日は若手社員の幸福度が下がるというケースもありました。まさに千差万別。
それぞれに適したコミュニケーションでつながって幸福度を高めることが、組織を活性化させ、個人の仕事のパフォーマンスを高めるのです。
今、日立製作所では営業職600人にウェアラブルセンサーをつけてもらって、4週間きっちりその人の行動を計測し、そのデータをもとに、AIが毎日スマホから「取るべきコミュニケーション」をアドバイスしています。 「上司には午前中に会いに行ったほうがいいよ。でも会うのは5分以内にしてね」と。
もちろん、アドバイスは同じ職場でも人によって全く違います。今は社内で実験をしている段階ですが、いずれ社外に提供していきたいと考えています。

――どのような行動を見て幸福度を計っているのでしょうか。

矢野
見ているのは無意識の体の動きです。人は座っていても無意識に体は動いていて、それは自分ではコントロールできません。その動きの中に、幸せかどうかがわかるシグナルが出ています。
幸福度の高い人たちの特徴は、自分でも意識していない小さな動きが長く続いたり、すぐに止まったりというパターンに多様性があって、ばらつきがあることです。
石川
ああ、「ゆらぎ」ですね。疲労研究の権威に、梶本先生という方がいらっしゃるのですが、リラックスの要因は風や音、温度、湿度の「ゆらぎ」であるとおっしゃっています。
たとえば室内温度も26度で固定するよりも、±1.5度くらいのゆらぎがあったほうが疲れにくいと報告されています。森林浴でリラックスできるのは、それこそ「ゆらぎ」があるからだと。
矢野
もしかしたら、人類の祖先が森に住んでいたころに、埋め込まれたリズムなのかもしれないですね。

――逆に、人が自覚できる行動で幸福度を高めることはできるのでしょうか?

日立製作所 理事 研究開発グループ技師長 矢野和男日立製作所 理事 研究開発グループ技師長 矢野和男
山形県出身。1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。91年から92年まで、アリゾナ州立大にてナノデバイスに関する共同研究に従事。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功し、ナノデバイスの室温動作に道を拓く。 さらに、2004年からウエアラブル技術とビッグデータ収集・活用で世界を牽引。論文被引用件数は2500件、特許出願350件を越える。特に、ウエアラブルと人工知能を活用したハピネスや充実感の向上に関する研究で先導的な役割を果たす。博士(工学)。IEEE Fellow。電子情報通信学会、応用物理学会、日本物理学会、人工知能学会会員。日立返仁会 総務理事。東京工業大学大学院特定教授。文科省情報科学技術委員。

石川
以前、京都大学総長の山極氏が「約200種類いる霊長類の中で、人間だけが赤の他人にも餌をあげる」という話をされていました。コミュニティ外の人にも食事を渡すことで、何が可能になったかというと、長距離移動です。
移動した先で食事にありつけるうえに、そこで見聞きした新しい情報を元のコミュニティに持って帰れたから、人類の知能は進化したのだと。大きく発達した人間の脳には、困っている人に手を差し伸べることが幸せだと感じるようにプログラミングされているのかもしれません。
矢野
まさに、「食料を他人に与えることで幸せに感じる」というのは、人間にしかできない非常に高度なことですね。
石川
ランナーズハイならぬヘルパーズハイというのがあるくらい、人を助けることは人にとって気持ちのいいことです。

「人とのつながり」は寿命にも影響

――石川さんは予防医学の観点から、「人とのつながり」が健康や寿命に影響していると提唱されています。具体的に教えていただけますか。

石川
20世紀の大発見は、タバコやお酒、高血圧、肥満が健康を害するとわかったことです。でも、20世紀の後半から、「どうやらタバコよりも健康を害するものがあるぞ」と気づき始めました。それが「孤独」です。30年以上行われているさまざまな研究から、つながりが少なく孤独であることが、健康や寿命に影響しているとわかりました。
矢野
おもしろいですね。だけど、それはケースバイケースではないかという風潮があると思うのですが、いかがでしょう。人によっては、あまり人と接しない方が良いケースもあると、信じている人がいると思います。
石川
もちろん、嫌いな上司とは、あまりつながりたくないですよね(笑)。何事もメリットだけでなく、そのようなデメリットもあるのですが、全体の傾向としてつながりが健康によいことが分かってきたのです。
たとえば、65歳以上の高齢者の研究をされている東京医科大学の金森先生の研究によると、健康を害さないために必要なのは、3つ以上の異なるコミュニティに属することだとわかりました。すると介護が必要になる可能性が20%以上下がったのです。
さらに別の研究では、コミュニティの中で役員的立場になる場合と、平メンバーになる場合では、全体の傾向として役員の方が死亡率が低かったと報告されています。つまり、つながりと地位の高さが健康と寿命に効いてくることがわかったのです。
地位の高さという観点でいうと、芥川賞にノミネートされて受賞した人と受賞できなかった人では、受賞した人の方が長生きするという研究を大阪大学の大竹先生がされています。これは、アカデミー賞やノーベル賞も同じ傾向があるようです。
地位の高さは自分の生きがいや自尊心、自信に影響するのでしょうね。

予防医学研究者、医学博士 石川善樹予防医学研究者、医学博士 石川善樹
1981年、広島県生まれ。(株)Campus for H共同創業者。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとした学際的研究に従事。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)、『最後のダイエット』、『友だちの数で寿命はきまる』(ともにマガジンハウス社)、『健康学習のすすめ』(日本ヘルスサイエンスセンター)がある。

矢野
単純に、地位が高くなると人とのつながりが増えますよね。私も本を出版してからつながりが増えました。
石川
高齢者になって、いつも決まった人と会っていると次第に脳を使わなくなります。いろんな人と会うことで脳が活性化するので、異なるコミュニティに属するのが大切なのではないかといわれています。
矢野
なるほど。異なるコミュニティに属するのと近い事例があります。あるコールセンターで、「難しい要求に短時間で的確に答える」という高いパフォーマンスを出す人は、いろんな情報を得られる人や、たくさんのつながりを持つ人とつながっていることがわかりました。
それは、いつも決まった人ではなく、違うコミュニティを持つ人とのつながりですよね。
石川
「タバコ部屋」コミュニティが強いと言われる所以はそこにありますね。違う部署の役職者などともつながれる場所ですから。
ただ、人がつながれる人数には限界があります。数年前、雑誌「ネイチャー」で読んだのは、人が本当に深く親しい人とつながれるのは35人が限度で、ゆるいつながりで最大限認知できるのは1500人。チームとしてやっていけるのは150人とのことでした。
これが人間の脳の限界。SNSが発達した現在でも、本当に親しく交われる人数は変わっていないそうです。
矢野
AIやテクノロジーで人間の脳を補完することで、深く親しいつながりを10人にできたら、ものすごいインパクトだということですね。
石川
すごいです。それこそ、今よりもっと健康で長生きできるかもしれません。

――よりよく生きるためのつながりを持ち、健康で長生きをするために、どんなサービスがあればいいと思いますか?

矢野
人間の本質やコミュニケーションの質と量、時間の使い方、人とのつながりといったリアルの分野と、AIは不可分だと思います。まだまだ分断して考えられがちですが、一体化することで仕事や幸福度などトータルのパフォーマンスが上がります。そういう時代はすぐそこまで来ています。
石川
統合することで、「ここに行くと重要な情報を得られるよ」などとアドバイスをしてくれるライフナビみたいなのが出てくるといいですね。AIの指示に従うのは、最初は苦痛だと思うけど、人がカーナビにすぐ慣れたように、ライフナビにも慣れるはず。AIに任せることで幸せに健康に生きられるなら、こんなに楽なことはないです。
矢野
日立で600人に実施しているウェアラブルセンサーを用いた実験は、まさにそれです。職場でのライフナビですね。
石川
矢野さんのウェラブルセンサーは人間の限界を補完してくれる装置だと思うので、早く商品化してほしいです!

石川善樹氏と矢野和男氏の写真

――生命保険の領域でも、AIや予防医学を取り入れた商品開発が進んでいます。この領域には、どのような商品があるといいでしょうか。

矢野
幸せな人は健康で長寿だというデータがすでにあるので、ハピネスを計測して保険料金を変える、ハピネス生命保険があったらいいですね。さらに、ハピネスを上げる行動を起こしている人には特典を出すとか。
石川
おもしろいですね。あとは変わったところだと、「若いときに苦労していない人は長生きしにくい」という傾向もあるようです。というのも、年を取ってからは、親しい人が亡くなる、社会的に活躍できなくなる、体が衰えるなど苦労が増えるのですが、若いときに苦労していないとそれらを乗り越えにくくなるようなのです。
矢野
若いというのは何歳くらいまでを指しますか?
石川
そうですね、90歳の人に言わせると70歳は若いと言うでしょうね(笑)。というのは冗談ですが、100歳まで生きる現在では、50歳くらいまでが若い層に入ると思います。
ただ、苦労をし続けては逆効果です。変な言い方ですが、ブラック時々ホワイトみたいな環境がいいのではないかと(笑)。いずれにしても、喜怒哀楽がたくさんある人生は長生きでハッピーです。
矢野
それから、生命保険にAIをどう絡めるか。これまでの常識が通用しない時代に突入しているわけですから、未知のリスクに対応するAIと、何かが起こってしまったときにお金でサポートする保険が一緒になれば、トータルでのリスク管理ができると思います。
未知のリスクをマネージする総合サービス「生命保険2.0」へのアップグレードに期待したいです。

(取材・文:田村朋美、撮影:藤記美帆)
本コンテンツは2016年8月にNewsPicksで掲載された記事です。

メットライフ生命は、世界・時代の変化に対応する、新しい保険ソリューションを考え続けています。その取り組みの一つとして、疾病になった後に保障するだけでなく、疾病を予防するプログラムを、産学連携のもと共同開発いたします。

この疾病予防プログラムは、生活習慣病や認知症、がん等、疾病予防の取り組みが求められている領域において、東京大学大学院薬学系研究科との共同研究により構築した科学的なエビデンスをベースとし、人工知能(AI)などの最新デジタル技術を活用した生活改善アドバイス等を行う、これまでに例を見ないヘルスケアサービスです。

また、一人ひとりの健康状態に合わせたプログラムを開発し、多様化するニーズやライフスタイルに対応すべく、ライフログ管理、遺伝子情報、ビッグデータ解析などの活用も視野に入れています。

この取り組みにより、生活習慣病の重症化予防や重大疾病における医療費低減などの社会課題の解決にも貢献でき、将来的には革新的な保険商品・サービスの提供につなげます。

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